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東京高等裁判所 昭和38年(う)1854号 判決 1963年12月24日

控訴人 被告人 恩田育洪

弁護人 遠山丙市

検察官 平岡俊将

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

押収にかかる現金四千円(東京地方裁判所昭和三八年押第九〇〇号、当庁同年押第六九六号の1)、現金四万九千五拾円(同16)、花札参箱、寺袋壱枚、受皿壱個、盆布壱枚、毛布壱枚、止め鋲二拾四本、替銭札弐拾枚、海綿壺弐個、メモ帳五冊、メモ紙片七枚、二色鉛筆弐拾五本、寺箱壱個及び小刀壱挺(同17ないし29)は、これを没収する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人遠山丙市提出の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用する。

職権により調査すると、原判決は、その理由中において、押収にかかる現金五千百円(東京地方裁判所昭和三八年押第九〇〇号の2、4)は被告人の本件賭場開張図利の犯行を組成したもので、犯人以外の者に属しないから、刑法第十九条第一項第一号第二項によりこれを没収することとする旨説明し、主文において、右現金と被告人の右犯行により得た現金五万三千五十円(同1、16)(いわゆる寺銭)とを合算した現金五万八千百五十円を没収する旨の言渡をした。しかし、司法警察員の現行犯人逮捕手続書及び捜索差押調書に被告人の当審公廷における供述を総合すると、右現金五千百円中四千円(同2)は被告人が司法警察員により本件の開張中の賭場に臨検され捜索を受けた当時、該賭場に集り賭博に参加した客が賭博に供する目的でその手もとに所持していたいわゆる場銭であり、千百円(同4)は、当時右客が現に行なつている賭博に賭したいわゆる賭銭であることが認められる。しかして、賭場開張図利罪は、利益を得る目的で自らの主宰のもとに賭博をさせる場所を開設する行為があることによつて成立し、現実に賭博が行われたことを必要とするものではないから、右のごとき場銭及び賭銭は、法律上同罪の構成要素をなすものとはいえず、したがつて、本件犯罪行為を組成したものには当らないというべきであり、他に右各金銭の没収を適法かつ相当ならしめるべき事由を認めることができない。されば、原判決がこれを没収したのは、法令の解釈適用を誤つたものであり、この誤は、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

よつて、控訴趣意(量刑不当の主張)に対する判断は、ここではこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第一項第三百八十条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条但書により当裁判所は右部分につき次のとおり判決する。

原判決が適法に認定した被告人に対する罪となるべき事実に法令を適用すると、被告人の所為は、刑法第百八十六条第二項に該当するのでその所定刑期範囲内で量刑すべきところ、情状を検討すると、記録によれば、被告人は、昭和三十年頃東京都台東区浅草界隈を根城とする博徒田甫一家の身内となり、昭和三十四年頃から貸元として千束町一帯を縄張りに持ち、賭場の開張を渡世としていたものであることが認められ、以上の点に記録に現われている被告人の境遇、年令、性行、前科関係、犯罪後の情況その他諸般の事情を総合して考量したうえ、被告人を懲役六月に処し、主文第三項掲記の物件中現金四千円(東京地方裁判所昭和三八年押第九〇〇号の1)及び現金四万九千五十円(同16)は、本件犯罪行為により得たものであり、その余の物件(同17ないし29)は、本件犯罪行為に供したもので、いずれも被告人以外の者に属しないから、同法第十九条第一項第三号第二号第二項によりこれを没収することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 坂間孝司 判事 栗田正 判事 有路不二男)

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